肩の痛みのうち、肩の前方部の痛みを訴えて当院にご来院される方は比較的多くいらっしゃいます。
その中でも、上腕二頭筋腱が痛みの主原因となっていることが非常に多いと感じています。
概要
上腕二頭筋には、長頭腱と短頭腱という2種類の線維があり、どちらも肘関節の屈曲を主動作としており、前腕の回外、肩関節の屈曲・外転・内旋の動作にも作用します。
この2つの線維のうち、肩前方の痛みの原因となりやすいのは長頭腱の方です。
上の図にもある通り、長頭腱が肩甲骨の付着部(起始部)からでた上腕に沿って下降する際に、「結節間溝」という骨性の溝にはまり込むような形で走行します。この溝構造は長頭腱が肩関節や肘関節など上肢の運動の際に上腕骨軸から逸脱しないようにする構造となっており、解剖学的に非常に重要な部分となっておりますが、しばしば長頭腱は上肢の運動(特に上肢の外転外旋位からの急な内旋:投球動作やベンチプレスのボトムポジションからの挙上動作など)で前内方向にずれる力が働き、これが結果的に「結節間溝部での腱や周辺関節包の炎症」の引き起こし、痛みを発生させます。
症状
痛みは、肩関節前方(結節間溝部)から上腕骨の近位(上半分)まで拡がることがあり、肩の挙上や外転、外旋動作などが顕著に表れます。50肩の炎症期や石灰沈着炎のような強い安静時痛はないことが多いです。(動作痛が顕著)
原因
上腕二頭筋長頭腱を痛める主な原因としては、以下になります。
- 上腕骨(肩関節)外転外旋位からの内旋(水平内転)動作の繰り返し
→先ほども記載した通り、投球動作やバレーボールのアタック動作、またはベンチプレスのボトムポジションからの挙上動作では、肩関節は外転外旋位の状態から急速に内旋(水平内転)されます。その際に上腕二頭筋長頭腱には前内方向への運動ストレスがかかり、その結果結節間溝部での摩擦やサブラクセーション(上腕二頭筋長頭腱のズレ)が生じることで発症します。 - 不良姿勢(特に胸椎後弯:猫背)
→猫背になることで、肩甲骨は外転します。肩甲骨の外転は上腕骨の内旋+前方変位を助長し、いわゆる「巻き肩」姿勢になり、これが肩関節の挙上・外転動作時などに前方組織、特に上腕二頭筋長頭腱に負担をかけることで発症します。 - 腱板機能の低下
→いわゆるインナーマッスルと呼ばれる筋肉がうまく機能しないと、上腕骨(頭)を肩甲骨の関節窩に引き付けておく作用が低下します。(骨頭求心力の低下)
インナーマッスルによる骨頭求心力が低下することで、上腕二頭筋がその代わりをしないといけなくなることで、必要以上の負荷がかかることで発症します。 - 上肢を使った繰り返しの作業(重量物の運搬)や加齢による変性
→繰り返し上腕部へ負荷のかかる動作や加齢変化に伴い、「マイクロトラウマ」という微細な損傷が経年的に蓄積されることで発症します。
鑑別診断
主な鑑別診断として重要なのは以下になります。
- 肩関節周囲炎(いわゆる五十肩)
- 石灰沈着炎
- 腱板疎部損傷
- 関節唇損傷
- 腱板損傷 など
治療法
上腕二頭筋長頭腱炎の改善には徒手療法/カイロプラクティックが有効です。
治療のポイントとしては、上腕二頭筋腱自体へのアプローチももちろん重要ですが、胸椎や肩甲骨などの周辺構造にアプローチすることも非常に重要となってきます。
- 長腕二頭筋腱のアジャストメント(前内方へのズレに対して)
- 長腕二頭筋腱長頭腱のリリース
- 結節間溝部の関節包・肩関節前方部の関節包のリリース
- 上腕骨アライメント不良(主に上腕骨頭の前方変位に対して)アジャストメント
- 胸椎後弯+肩甲骨外転変位に対するアジャストメント
- 上部肋骨内旋変位に対するアジャストメント
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