骨盤帯は寛骨(腸骨・座骨・恥骨)と仙骨・仙骨よりなりますが、そのうちの仙骨と左右の腸骨とで形成される関節のことを仙腸関節といいます。
仙腸関節は仙骨の両外側部と左右一対ある腸骨の内側部でくの字の関節を形成し、通常は各々の関節面がしっかりかみ合い、周辺を靭帯組織で覆われた状態になっており、可動性は他の関節と比較して非常に少ないと言われております。
しかし、仙腸関節には前後(矢状面)、左右(前額面)、水平面でわずかですが可動性をもっており、仙腸関節のこのわずかな可動性が前屈や後屈をはじめとする様々な身体活動で重要な機能を担っております。(2-3mm程度の可動性)
仙腸関節痛は、このわずかな可動性障害や、位置異常(サブラクセーション)によって生じる痛みのことを表します。
仙腸関節痛は腰痛の一部に分類されますが、その割合は全腰痛の約15~20%程度に仙腸関節が関係するともいわれております。
仙腸関節を痛めるおもな原因
- 起床時になど身体の硬い時に顔を洗うなどの前屈動作をした際に仙腸関節部にストレスがかかり発症する。(いわゆるぎっくり腰)
- 前屈位での重量物の挙上の際に仙腸関節面で位置異常(サブラクセーション)が生じて発症する。(こちらもいわゆるぎっくり腰)
- ソファや車の座席など座高の低い椅子に座る際に、骨盤全体が後傾位になることで仙腸関節に負荷がかかり発症する。
- スポーツ活動などで繰り返し体幹を回旋することで仙腸関節部に負荷がかかり発症する。
- 上記のような不良姿勢や繰り返しの動作などでアライメント不良が生じ、その繰り返しによる仙腸関節部への微細な損傷(マイクロトラウマ)の蓄積で徐々に発症する。
仙腸関節痛の特徴
- 仙腸関節部の痛み、ひどい場合は臀部~大腿部外側に拡がる
→椎間板ヘルニアの痛み(神経起因の痛み)と鑑別が必要 - PSIS:上後腸骨棘の痛み
- ソファーや車のシートなどの低い椅子に座っている時の痛み
- 椅子から立ち上がったりするときや寝返りを行ったときの痛み
- 顔を洗う時など体幹を前屈させたときの痛み
→後屈させたときの痛みもある - 胡坐を組んだ時の痛み
- 歩行時痛
※仙腸関節の痛みの範囲(関連痛)
仙腸関節痛に対する徒手的アプローチ
- 仙腸関節のアジャストメント
前述の通り、仙腸関節は仙骨の外側部と左右の腸骨内側関節面とで関節を形成しており、これらは特に体幹の前屈/後屈動作で連動して動きます。
おじぎをするような体幹の前屈動作では脊柱の屈曲(背骨が丸くなる動作)に合わせて、骨盤(寛骨+仙骨)は前傾します。したがって仙腸関節自体も骨盤全体として前傾方向に動いていきます。(ニューテーション)
しかし体幹前屈の最終域になると寛骨(腸骨は)前傾運動を継続しますが、仙骨は寛骨(腸骨)に対して相対的に後傾していきます。これは仙骨の起き上がり運動、あるいはカウンターニューテーションといいます。寛骨に対して仙骨が相対的に後傾位を維持することで、体幹の過度の前屈による前方への転倒を防ぎます。
一方、体幹を後方に反り返るような後屈動作では、前屈動作と逆の動きが生じます。したがって脊柱が伸展していくにしたがって骨盤(仙骨+寛骨)は後傾していき、仙骨も後傾します。(カウンターニューテーション)
しかし一定のところまで後屈したところで仙骨は寛骨(腸骨)に対して相対的に前屈し始めます。これは仙骨のうなづき運動、あるいはニューテーションといいます。寛骨に対して仙骨が相対的に前傾位を維持することで、体幹の過度な後屈が抑えられ、後方への転倒を防ぎます。
説明が少し長くなりましたが、要するに仙腸関節痛が起きている場合、仙骨と腸骨(寛骨)の前屈後傾動作の連動性に異常が生じている場合が非常に多いです。
(水平面の動き=インフレア/アウトフレアも関係するがここでは省略しています。)
施術ではまず仙骨側の動きの異常を触診検査、整形外科的徒手検査で導き出し、動きの制限、あるいは可動性亢進のある方向、痛みの出る方向を把握したうえで、
正しい関節の位置(その人にとっての正しい位置=症状の出ない位置)や運動方向に関節運動学的治療テクニックを用いて修正していきます。腸骨側や腰椎(特に下部腰椎)にもアライメントや動きの異常があれば、同様に修正します。
※左図:Nutation(ニューテーション):寛骨に対する仙骨の前屈(うなづき)運動
※右図:Counter Nutation(カウンターニューテーション):寛骨に対する仙骨の後屈(起き上がり)運動
- 仙腸関節周囲の靭帯のリリース
仙腸関節のズレ、運動障害が生じている場合は、仙腸関節に付着する靭帯組織に過度な伸張ストレスが生じていることがほとんどのケースで見られます。特に後仙腸靭帯や仙結節靭帯/仙棘靭帯は高い頻度で伸張性に過緊張が生じており、これらをリリーステクニックを用いて改善させていきます。
とくに仙腸関節由来の痛みが仙腸関節部だけでなく、臀部や大腿外側にまで広がっている関連痛を伴なう場合、これらの靭帯の過緊張を改善させることは必須となります。 - 体幹の前屈/後屈動作の修正(運動療法)
仙腸関節痛がある場合、前屈/後屈動作に異常があることが多く、特に股関節屈曲可動性、胸椎伸展可動性に問題が生じています。
これらの動作異常を運動療法で修正することは重要です。
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