外側上顆炎(テニス肘)

外側上顆炎は、肘の外側上顆に付着する手関節を背屈(伸筋)させる筋肉(腱)にかかる伸張ストレスが原因で、肘の外側から前腕にかけて痛みや筋力低下などが疾患のことをいいます。テニス選手のバックハンドストロークの繰り返しで多く発症することから「テニス肘」とも呼ばれます。

1.発生機序

上図のように外側上顆に付着する手関節の伸筋群には、手関節の背屈、手関節の回外(手のひら側を上に向ける)、指の伸展動作などの作用があります。

ものを掴んで持つなどの把握動作、パソコンのタイピングなどの指の屈伸動作、ぞうきんをしぼるなどの動作、テニスのバックハンドなどのスポーツ競技動作などあらゆる場面で手関節の伸筋群は働いており、これらの使い過ぎにより発症することが多いとされています。

したがって外側上顆炎は1回の動作で急激に生じるというより、繰り返しの伸筋群が腱組織になり外側上顆に付着する付近への繰り返しの力学的ストレスによる組織の微細な損傷(マイクロトラウマといいます)の積み重ねにより生じることが多いです。(外側上顆部の打撲などの場合は1回の外力で急性に発症することもあります。)

外側上顆炎でもっとも原因となりやすいとされている筋肉は短橈側手根伸筋腱です。短橈側手根伸筋は手関節背屈回外動作のほか、特に中指の伸展動作にも作用するため、パソコン作業などをする人や頻繁に手指を使う人に症状が出やすいです。

※拡大部:伸筋群(腱)のマイクロトラウマ(微細損傷)

2.症状
  • 手関節背屈、回外、指の伸展(特に2,3指)動作時の痛み
  • 外側上顆部の圧痛
  • 炎症症状が強い場合、夜間痛(安静時の痛み)
  • 筋力(とくに握力)低下、握る動作で力が入りにくい
  • 慢性化すると外側上顆部の肥厚(こぶのように隆起する)

3.分類

①炎症性(急性)外側上顆炎
 痛みや筋力低下が、外側上顆部の組織の炎症物質の産生により生じているものを指します。症状が発現してから2~3週以内の急性期の場合が多いです。この場合、患部の痛み(圧痛)のほか、熱感、腫れなどの症状もみられます。また痛みとしては局所的な場合が多く、手関節や指の運動でと強い痛みが現れることが多いです。

この場合の応急処置としては、患部の急速と炎症症状を鎮めるためにアイシングを行うことです。


②変性(慢性)外側上顆炎
 痛みや筋力低下の原因が、炎症症状によるものではなく、伸筋群(腱)が骨(外側上顆)に付着する部分で繊維質になり変性を起こすことによるものとされています。したがって外側上顆炎というよりは外側上顆腱症と呼んだほうが適切かもしれません。

そしてこの場合は発症から3週間以上経過しても痛みがひかず、いわゆる慢性的な痛みとなっていることが多いです。痛みの特徴としては、炎症性(急性期)の時のような鋭い痛みというよりは、重く鈍い痛みで患部だけでなく、前腕から手関節周辺にまで拡がった痛みとして感じられることもあります。また握力など筋力低下が多くの場合見られます。

慢性(変性)の外側上顆炎の場合、炎症症状は起きていない場合が多く、痛みは腱の変性→線維化→血流障害からくるものが多く、この場合はアイシングは患部の血流をさらに低下させる可能性があるため適切ではなく、患部を温めるほうがよいでしょう。そのほか、伸筋腱のストレッチは線維化し硬くなった患部の組織を伸張させる効果があるため推奨されます。

4.治療法
  • 腕頭関節(特に橈骨頭)のアジャストメント
    外側上顆炎が起きている場合、多くのケースで橈骨頭は後方外側へ変位(サブラクセーション)しています。橈骨頭のサブラクセーションが最初に起こることで、それが結果的に伸筋群に伸張ストレスを掛けることで外側上顆炎を併発している可能性も高いです。したがって、この橈骨頭のサブラクセーションを関節運動学に沿った手技を用いて、本来の位置へアジャストメントします。
  • 手関節伸筋群(腱)のリリース
    先ほども記載した通り外側上顆炎には、①腱の炎症が起きている場合と、②腱の変性(腱症)が起きている場合があります。炎症による痛みと腱の変性による痛みとでは、厳密には痛みのメカニズム(原因構造)として異なりますが、それぞれに共通して生じているのは「腱の癒着」です。

    したがって、治療は伸筋群(腱)の癒着をリリースすることに重点をおきます。癒着を解消することで各筋群の線維走行の正常化、滑走性が良好することで繊維質になっている物質の除去にもつながります。

    主にターゲットとする筋群や神経
    ・短橈側手根伸筋/長橈側手根伸筋
    ・回外筋
    ・総指伸筋
    ・橈骨頭関節包(輪状靭帯)
    ・橈骨神経・後骨間神経



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