不良姿勢に対する治療アプローチ

1.概要

不良姿勢とは、身体の各部位が前額面(身体の正面)および矢状面(身体の横面)双方での重心線から逸脱した姿勢の状態を指します。

簡単な例えで言うと、骨盤から下半身は前方にスライドしているのに、上半身(特に背中)は後ろに残ったまま丸くなっている、いわゆる猫背姿勢とかスウェイバック姿勢といったものがそれにあたります。

姿勢が崩れることによって、日常動作やスポーツ動作始めとするあらゆる動作に支障をきたしやすくなるばかりでなく、肩こり、腰痛や頭痛の原因になったり、自律神経にも影響を及ぼす可能性があります。

不良姿勢になる原因としては、骨格の先天性構造的変形が原因となるものもありますが、現代社会におけるワークスタイル(デスクワークでのパソコンやスマートフォンなどの過使用)が正しい姿勢の維持を損なわせるといった後天的要因も少なからず関係してきます。最近では新型コ〇ナにともなうリモートワークの増加などの「俗に言う新しい生活様式?」もかなりの影響を及ぼしているものと思われます。

ここではそんな不良姿勢に対する、当院での治療アプローチ法とご自分でできるリハビリ(運動療法)について、不良姿勢をタイプ別に分類してご紹介しています。

2.姿勢の種類

①理想的な姿勢

横からみた理想的姿勢(重心位置)とは、

耳垂(耳たぶ)
・肩峰(骨が隆起した部分)
・大腿骨大転子(骨盤の最高位から約10cm真下にある骨が隆起した部分)
膝関節前方(膝蓋骨後面)
・外果前方(くるぶし前方)2~3cm

が一直線上に位置している立ち方です。立っている時に各ポイントが重心線上にあれば、各関節や筋肉への過剰な力学的負荷が最もかかりにくく、理想的な立ち方と言えます。

確認方法としては、壁に自分の身体の後面をつけて立った際、
後頭部、両肩後面、骨盤後面、両踵後面が自然と壁につき、腰と壁のすきまに手のひらが入る程度であれば理想に近い重心位置で立てています。

②不良姿勢:後弯前弯型姿勢 (kyphosis-lordosis) 

後弯前弯型姿勢を先ほどの理想的な重心位置と比較した場合、

・頭部前方変位(頭部前突位)
・上部頸椎過伸展・下部頸椎過屈曲
・胸椎過後弯(肩甲骨外転内旋)
・腰椎過前弯(反り腰)・骨盤前傾

となります。

頭部前突により、頚部の筋肉(とくに後頭下筋群)や胸鎖乳突筋が過剰に働くことで頚部から頭部へ走行する神経が圧迫され、その結果肩こり・頭痛やめまいを起こしやすくなります。
腰部は過前弯によって、腰椎椎間関節などの関節に負担がかかりやすくなり、椎間関節性腰痛の原因にもなります。

短縮しやすい筋肉:頚部伸筋群、大胸筋、小胸筋、前鋸筋、腰部脊柱起立筋、腸腰筋、大腿直筋など

弱化しやすい筋肉:頚部屈筋群(前頚筋)、僧帽筋中下部繊維、上部脊柱起立筋、腹筋群など

※上位交差性症候群と下位交差性症候群が合わさった症状でもあります。

※後弯前弯のうち胸椎後湾がなく、腰椎前弯が強調された前弯型(軍人型=military posture)とよばれるものもあります。

③不良姿勢:後弯平坦型姿勢 (sway-back posture)

この姿勢の特徴は、骨盤後傾の状態であるということです。
頭部は先ほどの後弯前弯型姿勢と同様に前方変位しており、胸椎も長い後弯姿勢になっています。骨盤後弯にともなって腰部は平坦になり、壁に背を向けて立った場合、壁と腰の隙間に手がほとんど入らないくらいになります。
頭部前突位による肩こり、頭痛、めまい、顎関節にも影響を及ぼすこともあります。
骨盤後傾に伴って、ハムストリングスなどの下肢後面筋群が過剰に働き、股関節痛、膝窩部痛、腰痛の原因にもなります。

短縮しやすい筋肉:頚部伸筋群、大胸筋、小胸筋、前鋸筋、ハムストリングスなど

弱化しやすい筋肉:頚部屈筋群(前頚筋)、僧帽筋中下部繊維、上部脊柱起立筋、腸腰筋、大腿直筋など


④不良姿勢:平背型姿勢 (flat-back posture)

平背型という姿勢は、脊椎(脊柱)全体が平坦で、頸椎・胸椎・腰椎の生理的なS字湾曲がみられないフラットな状態を指します。フラットバック姿勢とも呼ばれています。

生理的な弯曲がないことで、脊柱にかかる衝撃をうまく逃がすことができずに、脊柱椎間関節や椎間板に損傷をきたしやすくなり、結果として椎間板ヘルニアなどの症状が現れることもあります。

全体的に脊柱は平坦になっていますが、下部腰椎は過伸展気味になっていることもあり、椎間関節症や脊柱管狭窄症の原因になることも考えられます。

短縮しやすい筋肉:腹直筋・ハムストリングスなど

弱化しやすい筋肉:腸腰筋など

3.不良姿勢に対する治療法

①後弯前腕型姿勢 (kyphosis-lordosis)


胸椎後湾変の場合、多くのケースで上中部肋骨内旋変位、下部頸椎(C6/C7)前方変位と上部頸椎過伸展変位が生じているため、関節運動学に基づいた治療テクニックで修正していきます。

腰椎~骨盤周辺についても、過伸展(過前弯)傾向にあるため、まずは寛骨や仙腸関節などのアライメントを徒手的に修正しします。腸腰筋などの股関節屈筋は短縮していることが多いため、リリーステクニックを用いて改善させます。

腹筋群は弱化している場合が多いので、横隔膜や腹横筋等の呼吸にかかわる組織の活性化も促していきます。

②後弯平坦型姿勢 (sway-back posture)

後弯平坦型(スウェイバック)についても、まずは胸椎後湾、頭部前方変位の問題を改善させることを軸に周辺軟部組織(筋肉など)の状態もみながら施術していきます。

特に上部頸椎の伸展変位には、後頭下筋群の短縮が関与しており、このことが原因で頸部の神経が圧迫されることで頭痛などの関連症状も併発することが多いため、後頭下筋群のリリースを重点的に行います。

腰椎は全体的には平坦傾向にありますが、下部腰椎は過伸展気味になっていることもあり、これに関しては、関節運動学治療テクニックを用いて、伸展変位(過前弯)を修正していきます。

骨盤から下肢は、骨盤後傾の影響で、ハムストリングスが過緊張になっており、これが原因で、肉離れや膝窩部痛の原因となるため、ハムストリングスへのアプローチは必須となります。ハムストリングス自体はもちろん、上行性に連動する仙結節靭帯や仙骨(仙腸関節)にもアプローチします。

③平背型姿勢 (flat-back posture)

平背の場合も、今胸椎はやや後湾気味になっており、上中部肋骨、下部頸椎はそれぞれ、内旋変位、前方変位していることが多いため、まずはそれを関節運動学治療テクニックを使って改善させます。

とくに平背の場合は、脊柱の生理的湾曲が少なくなった柔軟性を欠いた脊柱構造になっているため、施術の際は、運動療法も多く取り入れながら、総合的に改善させていきます。


4.運動療法

①後弯前弯型姿勢 (kyphosis-lordosis)

 point:
 上背部筋(僧帽筋中下部繊維・菱形筋)・腹筋群・大殿筋などの強化→活性化
 
後頭下筋群・斜角筋・下部脊柱起立筋・腸腰筋などのリラクセーション→抑制

 

  •  壁立ちエクササイズ(下顎の後方への引き付け練習)
  •  壁に背を向けての両手バンザイ動作
  •  壁ピタスクワット(壁に胸と膝頭をつけたままスクワット)
  • 横隔膜呼吸
  • 抱え込みストレッチ(下部脊柱起立筋、殿筋のストレッチ)
  • 腸腰筋ストレッチ(フロントランジ姿勢)
  • 腹筋群・殿筋群の活性化

②後弯平坦型姿勢 (sway-back posture)

 point:
 上背部筋(僧帽筋中下部繊維・菱形筋)・大殿筋・腸腰筋などの強化→活性化
 
後頭下筋群・斜角筋・ハムストリングなどのリラクセーション→抑制
 

  •  壁立ちエクササイズ(下顎の後方への引き付け練習) ※上写真と同じ
  •  壁に背を向けてのバンザイ動作   ※上写真と同じ
  •  壁ピタスクワット(壁に胸と膝頭をつけたままスクワット) ※上写真と同じ
  •  ハムストリング抑制(ハムストリングのストレッチ)
  •  大殿筋活性化(ヒップリフトなど)
  •  腸腰筋活性化(BBプランク+股関節屈曲/ALL4スクワットなど)
       →写真はBB(バランスボール)プランク+股関節屈曲



③平背型姿勢 (flat-back posture)

 point:
 上背部筋(僧帽筋中下部繊維・菱形筋)・大殿筋・腸腰筋などの強化→活性化
 
後頭下筋群・斜角筋・ハムストリングなどのリラクセーション→抑制
 脊柱可動性の改善

 

  • キャット&ドッグ(脊柱可動性向上)
  •  胸椎回旋系エクササイズ
  •  壁ブリッジ/床ブリッジ
  •  腹筋群(特に上部)の抑制
  •  腸腰筋活性化(ALL4スクワットなど)

 

詳細はお気軽に当院までお問合せください。

とくやま徒手療法研究所・施術院

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